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① 指定ジャンル「I棒」「1133」

 

無理していませんか。
海風にさらされる港を二人で歩いているとき、唐突に隣から生真面目な声で問われる。
していませんよと彼女と同じくらい生真面目な表情を作って、返事をする。
納得しかねるらしい彼女から、わざとらしく視線を反らして空を見上げると、ほの暗い群雲が太陽を隠した。
あの雲の向こうでは変わらず太陽が照っているはずなのに、間に水蒸気の塊が割り込んだだけで、もう地上にそれは届かない。
群というものは、あの灼熱の塊の恩恵すらも阻んでしまうのか。
陰った空を見上げながら、塩辛い風に外套をはためかせながら、隣の彼女が向けてくる痛いくらい真っ直ぐな視線に気付かないふりをしながら、ぼんやりと考える。
……ふと、思い出す。
生きているうちに自分の身体に染み付いた術が、外聞に気を配り、うまく世間を渡る術が、あの人から学んだ想いを覆い隠したあの日のことを。
ふうと、一つ大きく深呼吸をする。

「……ふみ子さん、お茶でも飲みませんか」

自分の胸中に立ち込もる群雲は、せめて彼女の前だけでも晴らしていたい。
そう決意を固め、真っ直ぐにこちらを見ていた女性と再び視線を合わせる。
はい、とはっきりした返事を聞いて、自分の愛車の元へ踵を返した俺の前に、ぼんやりと黒い影が現れる。
群雲は流れ、再び港は太陽の光に照らされていた。