「ふみ子さん」

名を呼ばれ振り返ると、頭に何かを被せられたのがわかった。
頭上に手を伸ばして触ってみると、カチューシャのような枠の外に、何やら毛皮のようなふわふわとした感覚が両方の指に伝わる。
2つ並んで立っている薄めの毛皮に似たそれは、先端にいくほど尖っているようで、それはまるで……

「!!」
「させませんよ」

自分の頭上にあるだろうものの正体に気付き慌てて外そうとした瞬間、神戸さんは私の両方の手首を素早く掴んだ。
こちらが抵抗できないぎりぎりの強さで腕を胸元にまで引き下ろされてしまい、頬が熱く熱くなっていくのがわかる。

「何ですか何なんですか止めてくださいいい年した大人にこんなことして何が楽しいんですか何が嬉しいんですか恥ずかしいんです止めてください外してくださいぃいいっ!!!」

早口でまくし立てる私を、神戸さんはそれはそれは満足そうな笑みをうかべて眺めていた。
せめてもの抵抗として全力で肩を竦めてみてはいるものの、あまり効果はないことはわかりきっていて、悔しい。

「想像以上に可愛らしい姿ですね」
「~~ッ!」

言葉にならない声が、私の頬に一層の熱をもたらした。

「だからもう少し堪能させてくださいね、猫ふみ子さん」
「ね、ねこじゃないですっ!!」

本当に猫だったら、きっと私の全身の毛は芝生みたいに逆立っていることだろう。
 

 

 

そして → 小一時間

最終更新:2012年02月29日 19:39