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この話の、後日談かも……?

 

 

その日は珍しく、神戸の自宅でゆっくり酒を飲もう、という話になった。
そしてさらに珍しいことに、その夜は神戸が深く深く酔った。
酒に弱いため、ノンアルコールカクテルを楽しんでいた麻木は、泥のように机に突っ伏している神戸の傍らでかいがいしく世話を焼いていた。


「神戸さん、気分はどうですか?  お水、飲みますか?」

隣で意外に広い背中を摩りながら、コップに汲んできた水を差し出してみる。
うう、と声にならない返答が聞こえてきて、少し笑ってしまう。

「神戸さん、いつも格好よくいろんな事件を解決してる正義の味方なのに」

こんな顔もされるんですね、と麻木が笑うと、また神戸がなにかを口にした。
先程のうめき声とは違い、まとまった文節のような気がしたので、耳を近付けて再び話してもらうように促すと、

「せいぎのみかたなんかじゃ、ない、」

回らない呂律で喋りながら、ぐらりと身体を起こした神戸の目はとろんと据わっていた。

「おれ、あなた、のことが、すきです」
「知ってますよ」

いつもなら思わず赤面したくなるような台詞だったが、酔いが入った相手だからと麻木は微笑って背中を撫でる。

「すきで、すきで、たまらない、んです」
「嬉しいです、」
「ほんとにすきなんです」

背中を撫でている麻木を、酔いで潤んだ切れ長の瞳が、見据えた。

「どこかに、とじこめてしまいたい、くらいに」

とろりと据わった目が、苦しそうにきゅっと歪んだ。

「あなたがじけんにまきこまれたとき、ほんとにこわかった」
「とじこめてしまいたいって。まいにちあなただけをみつづけられるように、どんなときもおれといっしょにいて――ずっと、ずっと、いっしょにっ」

呂律の回らない口調でそこまで一息に言うと、神戸はがばりと麻木を腕の中に閉じ込めた。
床にしゃがんでいた麻木に、文字通り覆いかぶさるような姿勢である。

「そうできたらいいのにって……おれ、せいぎのみかたなんかじゃ、ないです。こんなことかんがえてる、ひどいおとこです」

酔いのせいか、加減のない男の力で、強く強く麻木の肢体が締められる。苦しさに眉をしかめながらも、麻木は神戸の背中に腕を回した。

「ふみこさん」
「はい」
「げんめつ、しましたか」
「いいえ、」
「おれ、こんなにんげんですよ」
「構いませんよ」

広いリビングで交わされる小さな会話が、ぽつんぽつんと消えていく。女が優しく撫でている男の背中は、広く小さい。
しばらく、時計の針の音と、外の喧騒が遠くから聞こえていた。

「私。神戸さんと、共に生きて、共に死にたいんです」

ぽつりと小さく呟かれた言葉は果たして、彼女の肩に顔を埋める男に届いたのか。誰にもわからぬ謎である。