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神戸尊は、後悔していた。
まず、その日、神戸は美味しいワインが呑みたかった。
しかし、いつもアフターを一緒に過ごす大河内の都合が悪かった。変わり者の上司は先に退勤しており、呼び出すわけにはいかない。
そのまま一人で呑むという手段もあるにはあったのだが、神戸は何となくそういう気分ではなかった。誰かと一緒に呑みたい気分だった。

そこで神戸は、彼女に、誘いをかけて、しまったのだ。

「行きつけの店があるんです。美味しいお酒、飲みませんか」
「私、お酒弱いから、お強い人は物足りないと思いますよ」
「構いませんよ、貴女が一緒に呑んでくれるだけで充分です」

彼女が神戸の予想をはるかに上回るほど酒に弱い、と気付いたときには手遅れだった。
辛うじて背筋は普段通りにすいとまっすぐ伸びているが、首が少し座っておらず、少しふらふらと揺れている。
彼女の特徴である垂れ目は潤み、とろんとした光を湛え、化粧っ気のない肌が紅く染まっている。
グラス1杯分のアルコールを口にしただけで、ここまで様変わりするものだろうか。

「おいしいおさけ、ですねぇ、」

かんべさん。意識だけはまだはっきりしているのだろう、バーの間接照明に照らさた彼女がこちらの瞳を見て微笑んだ。
……そういう手段に及んだ経験がないわけではないし、彼女に惹かれているのも確かだが。
彼女とはちゃんとけじめをつけて次のステップにいきたい、と考えていた。
だからこそ、酔った彼女をどうこうする、という気がないだけ、意識の裏で首をもたげた熱を重く感じる。
劣情を煽られる、という言葉の意味を、今身をもって痛感した。

(今度から、『酒には“とても”弱い』と言わせるようにしよう)

神戸はそう決意しながら、ごまかすようにグラスにくちづける。
彼がいつもより少しだけ飲み過ぎてしまい、翌朝二日酔いに悩まされたのは、また別の話。