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七夕神ふみ(夜)」(2012/08/20 (月) 21:07:13) の最新版変更点

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<p>一般的に、深い仲の男女が週末に二人きりで会うとなれば、まあ、想像に難くないコトが致されると考えていいだろう。<br /> それは俺とふみ子さんの間柄においても例外ではない。<br /> お互い時間が規則的とはいえない仕事に就いているにも関わらず、週末に会うとなると、たいていは最終的にホテルか駐車場の設備がある俺の家で夜を過ごす流れになった。<br /> 不思議なことだけど、明日が世間で休日とされている日なのだという認識がそうさせるのかもしれない。<br /><br /> そして、今もそんな週末の夜を俺の部屋で過ごしている最中で、御多分にもれず二人とも裸だった。<br /> ふみ子さんは少し皺が寄ったシーツの上で俯せになり、荒い呼吸を繰り返して身体を静めている最中で、俺はといえば一足先に火照りがある程度引いた身体を動かし、用を成したコンドームを手早く片付けていた。<br /> ふと喉の渇きを覚えて、傍らに横たわる彼女の黒い髪をさらさらと指で流しながら問いかける。<br /><br /> 「ふみ子さん、水飲みます?」<br /><br /> 湿った呼気の合間に呟かれた、お願いしますという掠れ声を聞き取って、床に足を降ろす。ついでに、近くに落ちていた下着も穿いた。<br /> 冷蔵庫から取り出したペットボトルと、その水を注いだグラスを両手に持って戻ると、ふみ子さんもベッドの上に身体を起こしていた。<br /> ふみ子さんにグラスに入っている方を差し出すと、ありがとうございます、と律儀にお礼を言われて、頬が緩む。自分はそのままペットボトルに口をつける。<br /> いただきますと小さく呟き、グラスに唇をつけたふみ子さんが、小さく声を漏らした。<br /><br /> 「あ」<br /> 「どうしました?」<br /><br /> 見ると、彼女の瞳はベッドサイドに置いた目覚まし時計に注がれていた。<br /> 日付変更線を越えたらしい。暦の数字が一つ大きくなり、7が二つ並んでいた。<br /><br /> 「七夕になりましたよ、神戸さん」<br /> 「ああ、本当ですね」<br /> 「……織姫と彦星は、今日の何時頃から会うんでしょうか」<br /> 「さあ、どうでしょうねえ」<br /> 「これから会うんでしょうか、もう会ってるんでしょうか」<br /><br /> たわいもないただの言い伝えなのに、そんなことを真面目に呟くふみ子さんは、見ていて面白い。<br /> 彼女のそんな様子を眺めるのが、俺は気に入っていた。ふと興がのって、話を合わせてみる。<br /><br /> 「わかりませんけど、まあ、どっちにしたって彼らも今年は週末デートですから、ゆっくりするんじゃないですか」<br /> 「ああ。そういえばそうですねえ」<br /><br /> 彼女の発言に便乗しただけなのに、ふみ子さんは、神戸さんは面白いことを言いますね、と深く感心している。<br />  お言葉ですが、俺からしてみれば貴女の方がよっぽど面白いですよ。<br /> いつも上司に意見するときのような言葉が脳裏を過ぎる。<br /> 言い返したくなるのを堪えていると、ぱたたた、と窓から水音がした。雨が、降り出したようだ。<br /><br /> 「……雨」<br /><br /> ぽつり、とふみ子さんも呟く。その声色はどこか残念そうだ。<br /><br /> 「彦星と織り姫にとっては、生憎の天気になりそうですねえ」<br /> 「さあ。案外、雲の上で逢瀬を楽しんでるかも」<br /> 「え?」<br /> 「雲で隠れてるから、下界の目を気にしなくていいし」<br /> 「……ふふ。神戸さんは本当に面白いひとですね」<br /><br /> ほくろのある目元をほころばせ、ふみ子さんがくすりと微笑む。<br /> 白いシーツにくるまった柔い身体が、窓からの薄い光でぼんやりと光っているように見えた。<br /> その光にあてられて、ざわり、と背筋の奥が粟立つ。<br /><br /> 「さしずめ、ダブルデートってことになるのかな」<br /> 「え?」<br /> 「ほら、俺達もデートの真っ最中」<br /> 「っひゃぁ」<br /><br /> 手にしていたペットボトルを不意にぺたりと目の前の白い首筋にあててやると、可愛らしい声があがった。<br /><br /> 「急に何するんですかっ」<br /> 「や、何となく」<br /><br /> ボトルの結露で首を濡らしたふみ子さんが、眉をしかめて見上げてくる。素知らぬ顔で茶化しながら、自分の背筋をざわざわと這い上る劣情をやりすごした。<br /> 彼女のふとした挙動に、いちいち心を動かしてしまう自分自身は本当に御しがたい。<br /> まったく、分別のついてない子供じゃないんだし、もっとスマートに在りたいんだけど。<br /> 特命係に入って、ふみ子さんと出会ってからというものの、どうにもやりにくさを覚えることが多くなっていた。<br /> それが一概に不快ともいえないから、さらに困る。<br /><br /> 彼女の傍らに腰を下ろし、窓のほうへ視線をやる。<br /> 窓についた水滴たちは、各々外の光を反射していて、星の光のようにみえなくもなかった。</p>
<p>一般的に、深い仲の男女が週末に二人きりで会うとなれば、まあ、想像に難くないコトが致されると考えていいだろう。<br /> それは俺とふみ子さんの間柄においても例外ではない。<br /> お互い時間が規則的とはいえない仕事に就いているにも関わらず、週末に会うとなると、たいていは最終的にホテルか駐車場の設備がある俺の家で夜を過ごす流れになった。<br /> 不思議なことだけど、明日が世間で休日とされている日なのだという認識がそうさせるのかもしれない。<br /><br /> そして、今もそんな週末の夜を俺の部屋で過ごしている最中で、御多分にもれず二人とも裸だった。<br /> ふみ子さんは少し皺が寄ったシーツの上で俯せになり、荒い呼吸を繰り返して身体を静めている最中で、俺はといえば一足先に火照りがある程度引いた身体を動かし、用を成したコンドームを手早く片付けていた。<br /> ふと喉の渇きを覚えて、傍らに横たわる彼女の黒い髪をさらさらと指で流しながら問いかける。<br /><br /> 「ふみ子さん、水飲みます?」<br /><br /> 湿った呼気の合間に呟かれた、お願いしますという掠れ声を聞き取って、床に足を降ろす。ついでに、近くに落ちていた下着も穿いた。<br /> 冷蔵庫から取り出したペットボトルと、その水を注いだグラスを両手に持って戻ると、ふみ子さんもベッドの上に身体を起こしていた。<br /> ふみ子さんにグラスに入っている方を差し出すと、ありがとうございます、と律儀にお礼を言われて、頬が緩む。自分はそのままペットボトルに口をつける。<br /> いただきますと小さく呟き、グラスに唇をつけたふみ子さんが、小さく声を漏らした。<br /><br /> 「あ」<br /> 「どうしました?」<br /><br /> 見ると、彼女の瞳はベッドサイドに置いた目覚まし時計に注がれていた。<br /> 日付変更線を越えたらしい。暦の数字が一つ大きくなり、7が二つ並んでいた。<br /><br /> 「七夕になりましたよ、神戸さん」<br /> 「ああ、本当ですね」<br /> 「……織姫と彦星は、今日の何時頃から会うんでしょうか」<br /> 「さあ、どうでしょうねえ」<br /> 「これから会うんでしょうか、もう会ってるんでしょうか」<br /><br /> たわいもないただの言い伝えなのに、そんなことを真面目に呟くふみ子さんは、見ていて面白い。<br /> 彼女のそんな様子を眺めるのが、俺は気に入っていた。ふと興がのって、話を合わせてみる。<br /><br /> 「わかりませんけど、まあ、どっちにしたって彼らも今年は週末デートですから、ゆっくりするんじゃないですか」<br /> 「ああ。そういえばそうですねえ」<br /><br /> 彼女の発言に便乗しただけなのに、ふみ子さんは、神戸さんは面白いことを言いますね、と深く感心している。<br />  お言葉ですが、俺からしてみれば貴女の方がよっぽど面白いですよ。<br /> いつも上司に意見するときのような言葉が脳裏を過ぎる。<br /> 言い返したくなるのを堪えていると、ぱたたた、と窓から水音がした。雨が、降り出したようだ。<br /><br /> 「……雨」<br /><br /> ぽつり、とふみ子さんも呟く。その声色はどこか残念そうだ。<br /><br /> 「彦星と織り姫にとっては、生憎の天気になりそうですねえ」<br /> 「さあ。案外、雲の上で逢瀬を楽しんでるかも」<br /> 「え?」<br /> 「雲で隠れてるから、下界の目を気にしなくていいし」<br /> 「……ふふ。神戸さんは本当に面白いひとですね」<br /><br /> ほくろのある目元をほころばせ、ふみ子さんがくすりと微笑む。<br /> 白いシーツにくるまった柔い身体が、窓からの薄い光でぼんやりと光っているように見えた。<br /> その光にあてられて、ざわり、と背筋の奥が粟立つ。<br /><br /> 「さしずめ、ダブルデートってことになるのかな」<br /> 「え?」<br /> 「ほら、俺達もデートの真っ最中」<br /> 「っひゃぁ」<br /><br /> 手にしていたペットボトルを不意にぺたりと目の前の白い首筋にあててやると、可愛らしい声があがった。<br /><br /> 「急に何するんですかっ」<br /> 「や、何となく」<br /><br /> ボトルの結露で首を濡らしたふみ子さんが、眉をしかめて見上げてくる。素知らぬ顔で茶化しながら、自分の背筋をざわざわと這い上る劣情をやりすごした。<br /> 彼女のふとした挙動に、いちいち心を動かしてしまう自分自身は本当に御しがたい。<br /> まったく、分別のついてない子供じゃないんだし、もっとスマートに在りたいんだけど。<br /> 特命係に入って、ふみ子さんと出会ってからというものの、どうにもやりにくさを覚えることが多くなっていた。<br /> それが一概に不快ともいえないから、さらに困る。<br /><br /> 彼女の傍らに腰を下ろし、窓のほうへ視線をやる。<br /> 窓についた水滴たちは、各々外の光を反射していて、星の光のようにみえなくもなかった。</p> <p> </p> <p>========</p> <p>Twitterでフォロワーさんがつぶやいていた<br /> 「織姫と彦星の週末デート。」「土曜日に逢う二人(七夕)って「今日は泊まりね」感すごい。」<br /> 「小さい頃は「雨が降ったら織姫と彦星は逢えなくなるのかなー」と思っていたけど、それは雲の下にいる私達の事情なだけだよな。」<br /> 「雨が降っていると雲の上の二人が見えないので、人目を気にしなくて良いのかもしれんな。」<br /> という内容を受けて思いついてしまった神ふみ。<br /> ……なのに、書き終わったのは8月末である。 今度から思いついたら素早く書き上げるようにしよう。</p>

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