みゆき「あの~、泉さん。少しお聞きしたいことがあるのですが・・・」
お昼もちょうど終わり、学生達が無駄話と無駄寝と無駄遊びに講じるちょうどこの頃。
何時もと比べると、ほんの少しだけ深刻そうな表情で、みゆきさんが私に質問をしてきた。
みゆき「泉さん。あの・・・お姉さん・・・とかって、本当にいらっしゃりませんよね?・・・」
「・・・うん、いないけど・・・?」
・・・あれ? みゆきさん、私の家族構成知ってなかったっけ?
みゆき「実は・・・、今日の朝ですね、泉さんにソックリな方を見かけまして・・・。
もしや、と思ったのですが・・・」
かがみ「こなたにソックリって・・・、そりゃまた・・・」
つかさ「へぇ~、なんか面白そうですね! 実はこなちゃんが知らないだけで、
生き別れたお姉さんとか!?」
微妙に半笑いと、どこか同情を漂わせる視線を漂わせるかがみに、若干興味を抱いた様子のつかさ。
まぁ、この時はただの人間違いだと思ったんだけどね。お父さんの性格からして、
隠し子なんて有り得ない、というかお母さん以外に彼女がいたのかどうかすらも怪しいし・・・。
・・・でも、その・・・今こうして目の前にいる『これ』は・・・もっと想定の事態を超えているわけで・・・。
え~っと、分かる奴がいたら直ぐにここに来い。そして誰でも良いからここに来て私に説明しなさい、
とか某アニメキャラクターの様に言いたくもなるというか、そんな感じ・・・。
とにかく、私は目の前にいる現実に目を向けなければ行けなかった。
その・・・、私のベットで寝ている『私』に。
・・・何があったのか? それは私が一番知りたい・・・。
学校でみゆきさんに質問を受けたのが今日のお昼。午後の授業が終る頃には、
すっかりそんなことは忘れてしまってて、帰ってネトゲでもやろう、と思って帰宅したら、
この・・・『私』がベットに鎮座、じゃなくて横になっていた。顔はボサボサの髪の毛が隠していて
見えづらいけど、顔つきや目の下のほくろ、体つき、寝るときの姿勢など、まさに私そのものだった。
見るにまだ寝ているらしい。ビデオカメラに映された自分に違和感を覚えるように、もの凄い違和感。
けど、とりあえず、このまま寝てもらってても埒が明かないので、起こすことにする。
「ン・・・臭ッ・・・?」
な、なんか臭おうんだけど・・・。嫌だなぁ・・・。
「・・・あのぅ・・・、もしもし・・・もしもし・・・」
軽くゆすってみる。なぜもしもしなのか?それは私にも分からない。
近くでよく見ると、泣いたあとがあるようにも見える。なぜ泣いていたのか?これも分からない。
「・・・・・・」
もう少し強めにゆすってみる。こんな時に「お兄ちゃん朝ですよ」と、エロゲーによくあるシチュのように
起こすことができたらいいんだけど、相手が相手だから・・・。いや、私だから良いのかもしれないけどさ。
私?「・・・・・・・・・ン・・・?」
しばらくゆすっていると目を覚ましたらしい。虚ろな眼がしばらく辺りを散開し、
やがて私を見たところで焦点があった。なんだこの図は。実にシュール。
私?「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ッッ!!!!!!!」
声にならない悲鳴。今時サスペンスドラマでだってみない酷い表情。
まさにハトが豆鉄砲・・・だっけ?というやつだ。
「おはよう? え~と、私?」
長い夜の幕開けだった。
発作の様な悲鳴はあれからすぐに収まった。いま私の傍らには私が淹れたお茶を
どこか儚げな表情で見つめる私2号(私命名)
やったね!双子だね!とかがみ達に見せてあげたいところだけど、よく見ると私よりは年上の様子。
髪の毛もちょっと長い。ただ、手入れ自体は全くされてないようでボサボサ。その上、目が死んでるし、
肌も酷く荒れて、クマも目の下にある。
私2号「・・・・・・・・・・・・」
その上さっきからこの調子。ず~~っとだんまり。いい加減私もつらかった。
お父さんを呼んでもよかったんだけど、何を言われるか全く想像がつかない以上、
止めといた方が良いかな、と判断した。んで、今に至る。正直失敗・・・。
正直気は引けるけども、何かしないと変わらないので声を掛けてみる。
「あの・・・、こなた・・・さん?」
自分で自分の名前に「さん」付けをする違和感。
無言で視点を再びこちらに向けると、長い間、私2号は私を見つめ続けた。
いい加減お父さんを呼ぼう、と再決意しかけたとき、
私2号「・・・・・・・・・・・・・・・・・あんた、私・・・よ・・・ね? 多分若いころの・・・」
私2号はゆっくりと口を開き始めた。
――私2号の話の概要はこうだった。
現在の年齢は不明。・・・というよりも忘れたらしい。多分26~8ぐらいだとのこと。
職には付いておらず、今でいう所謂ネトゲ廃人、引きこもりだと言っていた。
まぁ、あれなので要約すると、要するに未来人、というわけである。よりによって・・・私の。
あ・・・あんまりだ。
私2号「・・・・・・・驚かないの?」
そりゃ驚いてる。少なくとも、私が何のオタ的下地もない単なる一少女だったら、
自分から病院にご挨拶にいくか、さもなければ、警察を呼ぶかをしただろう。
でも、幸いなこと(?)に私はそういったオタ的下地があった。つまり、こんなファンタジーみたいな
突拍子もないことには一応、耐えられる思考と許容を持っている、ということだ。
「うん・・・まぁ、一応オタクだしね・・・。そういうのもあったらいいというか、あるし・・・」
もっともこういった形での対面は未来執永劫御免被りたいだけどね・・・。
「あ~~~・・・えっと・・・・、その・・・、単刀直入に聞くけど、結局何しに来たの?」
私2号「・・・・・・・・・・・・・・・分からない。ベットに入ったことまでは覚えてる。でも・・・後は何も・・・」
要するに目的のないタイムスリップみたいなものらしい。私にどうしろと・・・。
チッ・・・チッ・・・チッ・・・チッ・・・と、沈黙が続く傍ら、いつもは気にならない秒針の音がやたらうるさく感じられる。
これでは本当に何をしていいのか分からない。全くもって分からない。
あまりにしょうがないので私は
「よいしょ、っと」
寝ることにしてみた。ビバ、現実逃避!やってられるか~!
白いひげを蓄えたエセ神様に対して文句をつけつつ、私は横になった。
「あ・・・」とか聞こえた気もしたけど気にしない気にしない。
コタツの中は気持ちが良い。私2号も何も言わないし、私は割りと、スンナリ眠りに付くことができた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・
・
―――悪夢を見た。
酷い悪夢。
結婚式で幸せそうなかがみ。相手の顔は黒くて見えない。友人代表。私。スピーチ。
でも手は震えていて・・・。マイクの前に立つ。嘲笑。皆が笑ってる。
どれも黒い丸に三日月が4つ並んだだけの簡素な顔。でも歪な顔。顔。顔。顔。
皆が私を笑ってる。かがみ?かがみは?
かがみ「こなたぁー・・・、あんた ひ・き・こ・も・り、なんですってぇ?
よくもまぁ、私の結婚式に来られたわよねぇ?」
・・・違うよ、かがみ。私の意志じゃない。私じゃない。私は断ったんだよ。お父さんに頼んで。
あれ?それはつかさだっけ?ちがう?あれっ?分からない。分からない・・・。
分からない分からないわからないわからない・・・・・・!!!!!
つかさ「ふふっ、こなたちゃん 良かったね♪
あれだけ好きだったゲームに入り浸れて♪」
ちが・・・っ。
みゆき「泉さんも随分変わられましたね・・・。正直驚きです」
やめ。
ゆい「お姉さん分かってるよ! こなたはまだ大丈夫だって・・・」
や・・・
そうじろう「すまんな、こなた。お父さん、お前のこと、もう面倒見切れん」
ああああああああ、ああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!
「――・・・ッハァッ!!!」
私は目を覚ました。暗い。どうやら電気がOFFになっているらしい。
体は激しく発汗している。動機もまだ激しい・・・。なんだろうこれ・・・、気持ち悪い・・・。
「・・・ふぅ・・・」
ゆっくりと息を整える。落ち着け。・・・え~っと、まず、なんで私はコタツで寝てるんだろ?
確か、何かあったような・・・?
「・・・あ」
思い出した。そう、もう一人の私がいたのだ、この部屋に。
で、私は逃げるように寝て、え~っと・・・。
上体を起こすと辺りをゆっくりと見渡してみる。誰もいない。私が淹れてたはずのお茶が入ったコップも無い。
これは・・・つまり・・・?
「・・・・・・はははっ、・・・夢かぁ・・・」
心底ホッとした。そうだ、あれは悪い夢だった。きっとそうだ。
机の上に置かれていた飲みかけのペットボトルを開け、少し飲み干す。
少し温かったが、気分は随分と落ち着いた。こんなにもおいしかったかな?まぁ、いいや。
「とりあえず、電気っと・・・」
手探りでスイッチを探り当てるとそのまま電源を入れた。
ひどく眩しい。だが、目は一瞬で慣れた。
「ほんと、何だったんだろう・・・」
「ま、とりあえず、ネットっと~・・・」
いつものようにパソコンを立ち上げる。時刻はすでに11時を回っていたが、
まだ私の時間は続く。取り合えず深夜アニメが終るまでは寝るわけにはいかない。
カリカリカリッ・・・という独特のHDD起動音とともにWindowが立ち上がる。
「ん・・・?」
あれ?なんだろ?何かが変だ?
なんか違うような・・・。壁紙とか。こんなそっけない奴なんて使ってたっけ?
よく見ると、マウスも少し違う。キーボードも。モニターも。
確かに劇的に違うわけではない。でも違う。違うよこれ。あれれ?
私はなんだか怖くなった。ゆっくりと後ろを振り返る。
うん、確かに私の部屋。間違いない。けど・・・、なぜか残る違和感。
――その時だった。コンコンと扉をノックする音。
そうじろう「こなた、ちょっといいか?」
お父さんの声。
なんだか安心した。あのね、お父さん実は・・・
そうじろう「――つかさちゃんの結婚式の件なんだが・・・」
・・・・・・あ・・・れ?
とおくでなにかがおとをたててくずれたきがした
――了(BADEND?)
最終更新:2007年06月05日 23:24