「泉こなたを自殺させる方法」を考えるスレ みwiki dilemma2
こなたは自分の浅はかさを平謝りに謝った
すると、漸く単調なサイレンを鳴らしながら、救急車と消防車が到着した
こなたは燃え盛るパティの家を見遣る
一体パティが何をした
何故パティがこんな目に遭わなければならない
こなたの怒りを具象化するように燃える炎
本当に、この100人程の野次馬全員がアメリカに対して反感を持っているのか

違う筈だ
もし、100人全員がアメリカに反感を持っているのなら
救急車も消防車も来ない
恐らく4種類の人間がいる筈だ

本当にアメリカを憎む人間
特に理由は無いが、面白がってアメリカに反感を持つ人間
どっちつかずの人間
アメリカに反感の無い人間

こなたも正直どっちつかずなのかもしれない
いつかは洗脳されてしまうのだろうか
そんな訳にはいかない

「パティ…私、ずっとパティの傍にいる…約束するから」

パティは何も答えない
寧ろ、何も答えられない
こんなになるまでパティを放っておいた自分への罰になるだろうか
どんなことがあっても、もうパティから逃げない
こなたは心に深く刻んだ



パティは僥倖ながら、頬の切り傷以外に外傷は無かったが
一応病院には行くこととなり
こなたも付き添いとして着いていくことにした

隣室でパティの腕に看護婦が包帯を巻いている最中、こなたは医師に尋ねた

「先生…先生は、アメリカ人のこと、嫌いですか?」

30代程度と思われる、医者の経験値はまだまだな男性医師は
一つ溜息をついて言った

「正直なところ、嘘だろうと思っていた偏見が
現実的になったショックは大きいね」
「…」

こなたは哀しそうに頷く
「でも、僕は医者だからね
みんな同じ人間だし、僕が病気を治せばみんな喜んでくれる
それだけが生きがいなんだよ
アメリカ人がどうとか言ってられない
だから、僕は日本人でありながらも、事実上中立の位置に立っているのと同じさ
しかし、こうしてる間にも世の中は確実に大きく動いているのは確かだ」
「私は…この流れを止めたいんです
友達を救いたいんです」

こなたは、拳を握りながら演説のように訴える

「そうか…じゃあ、後悔しないくらいに、精一杯頑張ってごらん
お友達を助けてあげて」
「はい」

ちょうど治療の済んだパティが隣室から出て来たので、夜遅くにならないように
早めに病院を出た
携帯のディスプレイには「19:30」の時刻が表示されている
二人は、既に暗くなった空の下でとりあえず駅へと歩いていた

「コナタ…」

パティはもういつものテンションには戻れそうに無い

「ワタシ…ニポンがワカらない…ワカらない…」
「パティ…」

パティは見たことの無い無表情、無機質な声で淡々と語る

「ガッコウにもスコしナれてきて、やっとクラスにナジめかけていたのニ…
ワタシ…ナニもやってない、なのに…アメリカ人ってだけデ…
ワタシ、サベツするヒト、ダイキラいでス」

パティの口から初めて日本を否定する言葉が出てきた

こなたは、根無し草のパティを何処へ連れて行くか逡巡していた
こなたの家に帰るのが一番無難な選択かもしれない
かがみ達の家へ泊まらせるのは、さっきのいざこざもあってか気が引ける

「私の家に帰ろう」
「イイんですカ…?」
「野宿よりはマシでしょ、ほら行くよ」

パティは突然その場に立ち止まった
目からは抑え切れない感情が川のように流れている

「コナタ…ワタシ、ホントーにウレしいでス
ナンだかコナタ、ヒーローみたいでス」
「ヒーロー…か」

アニメや特撮で登場するヒーローは
敵の陰謀を打ち砕くことによって終末を迎える
自分は敵と闘える術があるのだろうか
もはや惨殺事件のことを
日本が忘れ去らない限りはパティは表にも出られなくなる
そんな気がした

満員電車に揺られながらも
サラリーマンはパティに触れると泥を払うように服を叩く
もはや一般人が洗脳された今、パティが日本にいるのは危険なのだ
電車を降りて、家への道のりを二人は並んで歩く

「コナタ…イマだからもうイってしまいますガ…」

パティは意を決し、ずっと溜めてきた思いを
パティの唯一信頼できるこなたに打ち明けた

「…ジツは、ワタシはアメリカでイジめにアっていましタ」
「えっ?」

同時に、こなたの脳裏に自分の過去の姿がフラッシュバックした
まさか、パティが虐められていたなんて
思わずパティの方を向くと、パティは口元だけ微笑む

「5ネンセイくらいまで
ワタシはずっとクラいセイカクだったので
トモダチもデキませんでした
そんなトキ、ネットでニポンのアニメをミて
カンドーしたんでス
ワタシは、アニメからゲンキをモラって
スコしずつテンションをアげられるようになっていましタ
でも、7ネンセイくらいからアニメオタクというヘンケンをウえつけられて
イジメられようになりましタ
でも、そのトキにオナじシュミのトモダチもスコしデキましタ
それに、ワタシはニポンについてもベンキョウしていましたし
ニポンでクらすことがユメでしタ
とあるテロに巻き込まれてママがナくなって
パパはユクエフメイなって、ワタシずっとバアちゃんとクらしてましタ
そのバアちゃんが、コウカンリュウガクのスコしマエに、ナくなりました
ワタシ、ニポンにリュウガクデキるコトがキまって、とてもウレしかったんでス
もうカエるおカネもヨウイしてません
ニポンにエイジュウするツモりでイましたから」

パティは微笑みながら涙を啜る
だが、本気で帰りたいのなら、お金を出せば帰れないこともない筈だ

「パティ、私達がお金出すから、アメリカに帰りなよ」
「…コナタ。ウレしいですが、それはムイミでス」

どっちにしろ、パティに逃げ道は無かった
アメリカでもこの連続放火の模様は伝えられているだろう
そうなると、アメリカでも日本への反感が高まる
そんな中パティがアメリカに帰ると、余計に顰蹙を買うことになるだろう

「そうか…」
「マエまでは、コクサイデンワで
アメリカのトモダチとおハナししたりしていましたが
サイキンはオンシンフツウでス…」

こなたはパティのあまりの逞しさに敬服してしまった
この壮絶な苦汁の中、あれだけ笑っていられたことが信じられない
パティの場合、両国ともに友達が少なかったに違いない
オタクは嫌われ者であり、偏見や固定観念の巣窟だ

「ワタシ…このフツカカンで
ニポンのホンショウをマのアタりにしたキがしまス」
「パティ…」
「いえいえ、ダイジョウブでス
コナタのようなニポンジンもナカにはイるってワカってますかラ
ただ、マワりのクウキにナガされているだけでス」
「…ごめん、パティ…私にはどうすることも出来ないかもしれない
でも、出来ることはやりたいと思うんだ」
「コナタ…」

低頭するこなたの顔を、パティは心配そうに覗く

「実は…私も小中学校で虐められてたんだよ…」
「エ…」

こなたも、パティに自らの過去を打ち明けた
こなたもパティと同じような境遇を歩んでいた
小中学生にかけて、背が小さいことを偏見の標的にされ
こなたはストレスの発散をアニメやゲームに回した
しかしそれが発覚すると、元々少なかった友達がこなたからどんどん離れ
最後には一人ぼっちになってしまった
こなたは中学の同級生との持ち上がりを拒み、そして陵桜学園に居る

パティは同じ趣味を持つ友達がいる
それに、日本に留学するために猛勉強したのだろう
それに比べてこなたは高校を変えただけ
性格も特に変えた訳でもなく、成長した訳でもない

「パティはいいよ…私なんか…
結局友達になろうって言ってくれたのは相手からなんだから…」
「ワタシもハジめてコエかけられたのはヒヨリでス」

結局そのひよりにまで裏切られた訳だが
二人共照れ臭く顔を紅潮させ、視線を反らす

「なんか…そっくりなんだね、私達」
「ホントーですネ」

いつしか、二人は泉家の前に立っていた
今や家の中にアメリカ人を入れる事がどういうことか
そんなことは聞かずして判る
だが、この状況を知っていて、それを見ぬフリなど出来る筈がない

いつも簡単に開けられる筈の門が重い

「おう、おかえりこなた」

そうじろうは庭で暇潰ししていたらしく、門を開く音に気付いたらしい

「ん、そちらの方は…」
「この子はパトリシア・マーティン、パティって呼んであげて」
「ヨ、よろしくでス…」
「外寒いし、中に入ろう…風邪引いちまう」

そうじろうは作務衣に腕を縮こませつつ家に入る
正直、素直にアメリカ人を入れるそうじろうに、こなたは吃驚していた

「おかえ…パティちゃん?」

炭だらけの服を着たパティを見て、寝間着姿のゆたかは狼狽した

「ゆーちゃん、ただいま」
「え、え…何でパティちゃんが?」
「あぁ、今日は家に泊めることになったから」
「ヨロシクおネガいしまス」
「あ、うん…よろしく」

ゆたかは小さく頭を下げる
パティをこなたの部屋へ案内し、ゆたかがお茶を持って来た
そこでこなただけゆたかに招かれ、ゆたかの部屋へと移動する
ゆたかは座布団を二つ敷いたうちの一つに座り
こなたに顔を近付けて、ひそひそ言う

「お姉ちゃん…パティちゃん家に入れるとこ、誰にも見られなかった?」
「…は?」
「は、じゃないよ…こんな時に何でパティちゃんを連れてくるの?」

ゆたかの言動がいつになくアグレッシブだ
どうやらゆたかはパティの家の状況すら知らないらしい
まあ、知っていたとしてゆたかにはどうすることも出来ないだろうが

「家が燃やされたからだよ」
「えっ…」
「そんな光景見て見ぬフリ出来る?」
「だからって…何で家に…」

ゆたかは呆れるようにため息をつく
まだ不満があるようだ

「ゆーちゃん…周りに流されちゃダメだよ
自分が善くない事言ってるって判るでしょ?」
「判るよ、でもそれは一人の人間のせいで
大多数の人間との関係も壊す事にもなるんだよ?
お姉ちゃんは、高良先輩が誘拐されかけたってことで
普通一番親身になって高良先輩の為に
アメリカと立ち向かっていかないといけない立場なのに…
先輩だって、みなみちゃん達だって、皆そうだもん」

保健室でちょっと手当てしただけで
直ぐにこなたに任せたのもそれが理由なのだろう

「…みんなおかしいんだよ
事あるごとに、アメリカ人アメリカ人って…
何もしてない人間がそんなこと言われる立場になってみなよ」

ゆたかは静かに首を振る

「…パティちゃんの気持ちも判るんだ
でも、あまりアメリカを庇って優等生ぶってると友達が離れるし
協調を大事にしてるんだよ」

ゆたかはこなたに詰め寄り、その牛蒡のような手で、こなたの腕を握る

協調って何だ
悪に手を重ねる幇助じゃないのか

「お姉ちゃん、まだ間に合うよ
今すぐパティちゃんを追い出して」
「今更、そんなこと出来る訳ないでしょ
そっか…所詮、ゆーちゃん達の友情はそんなものだったんだね
普通、こういう時こそ助け合って…」
「お姉ちゃん、私達はパティちゃんのことを一番考えてこうしてる
もし、パティちゃんが私達との関係を保っても
アメリカに反感を持つ人達ばかりなのに
パティちゃんはアメリカ人である立場を無くしちゃう」

身近な存在であるみゆきが
アメリカ人に掠われかけたという未遂事件については
確かに親友ならアメリカを怨むべきものはあるだろうが
こなただけは素直に反感を持てなかった
無論、パティのことが思い起こされたからだ
アメリカへの反感はみゆきの為であり
日本人としては仕方のない想いなのだろう
でも、パティを放っておくというのは
完全に自己中心的な判断であって、かつ端的な逃げ道だ
学校閉鎖という判断もそれと同じであり
みゆき誘拐未遂も原因だが
パティのいざこざを避けるために逃げ道を作ったのだろう

だが、本当にそうするしか無いのか
解決策は無いというのか

「お姉ちゃんはどっちの味方なの?」
「えっ…」

そんなのパティに決まってる、と言いたかった
何故逡巡しているのだ

パティを捨てるのは簡単だ
ただ、それをしてしまうと、パティはどうなる
パティを選ぶとなると、今まで仲睦まじかった親友とはもう和解出来ない
そればかりでなく、家族や従姉妹、日本まで裏切る事になる

自分は正義の味方でも何でもない
優柔不断のダメ女だ

「私は…その…」
「切り捨てるなら今のうちだぞ、こなた」

突如扉が開き、そうじろうが入ってきた

「俺はもうお前がやられるところなんて見たくないんだ
あいつと共になるってことは、また荊の道へ踏み込むってことだぞ
お前はそれでいいのか?」

こなたは俯いて、拳を握りしめる

パティを取ると、日本を敵に回すに等しい
パティを捨てると、一生罪悪感を背負って生きなければならない

時計の秒針は何周しただろうか
沈黙は漸く破られる


「…私はパティを見捨てられないよ」


こなたは呟いた
だって、約束したから
パティは自分が守るって

「そうか…
本当に後悔しないな?」
「…うん」

こなたは声を声色を強めた

「俺は出来るだけお前をサポートしたい
だが、こればかりはお前を助けることが出来ないかもしれないぞ?」
「大丈夫。荊に踏み込んだのは私の勝手だし
お父さんは着いてこなくても平気だよ」

こなたはそうじろうに心配をかけることをなるべく避けたかったが
もはやパティはこなたしか頼りのいない状態だ
そうじろうの気持ちもよく判る
アメリカに反感を持ちつつ、愛娘を危機に晒しながらも
アメリカを庇わなければならないのだ

どれも私のせいなんだ
ごめん、みんな

明日から学校は休みなので
ゆたかは安全の為にも小早川宅に避難させることにした
一先ず、ゆたかをゆいに迎えに来て貰う為にそうじろうは電話で問い合わせ
その間にこなたは自分の部屋に再び入室する
パティは、部屋に山積みとなっている漫画に手も触れずに
部屋の中央でぽつんと体育座りをしていた

「コナタ…ホントウにダイジョウブですカ…?
ナンだかとんでもないコトになってたりしませんカ?」
「大丈夫だよ」

ふと、机の上にあったこなたの携帯電話を見る
メールか着信が来たのか、LEDランプが点滅していた
携帯電話を開くと、ディスプレイに信じられない文字が記述されてあった

『着信あり 32件
メール受信 16件』

メール、着信は全てかがみかつかさによるもの
嫌がらせだろうか
怖いもの見たさか、ついついメールを読んでしまう

『こなた…さっきはごめん、私が悪かったわ
みんなも心配してるし、明日4人で喫茶店で会おう』

かがみから、これと似たようなメールが10件

『こなちゃん、お姉ちゃんは多分パティちゃんに
こなちゃんを盗られるのが嫌だったんじゃないかな
こなちゃんも判るでしょ?
お姉ちゃんはこなちゃんが大好きなんだよ
私達もこなちゃん大好きだから、明日仲直りしよう』

同じようなメールがつかさから6件
昼間から何度も送られていたようだ
そんなに早く返答が欲しいのか

かがみとつかさの文面の最後を見ると
共に明日いつものメンバーで仲直りしようと記述されている
確かに、内心こなたも仲直りはしたい
今までとても親しく、大好きだった仲間達
大人になってもずっと続くと思ってたから

和解という意味が、こなたと共に皆でアメリカの反感と闘うということなら良い
しかし、彼女達の午前中の会話を振り返る限り、とてもそれが目的とは思えない

ねずみ捕りとまではいかないが
行けば必ずアメリカに反感を持たざるを得なくなる
パティを捨てなければならなくなってしまう
メールの量から憶測しても、相手がこなたを引き止めようと必死なのは確実だ

「…どうしたらいいんだよ」

思想の升が溢れ出し、つい言葉となって出てくる

「え、コナタ?」
「あ、いやいや何でもないよ」

もういいや

こなたは蹴った
無視していれば、いつかは相手も諦めるだろう
メールは、読んでる合間にも1件、また1件と引っ切り無しにやってくる

無視が逃避を意味することは、当然理解している
だが、もう今更パティを追い出すのはあまりに酷だ

「パティ、これから暫くは家に泊まっていいからね」
「でも…メーワクかかるんじゃ…」
「平気だって」

こなたはパティを安心させる為に微笑んだ

「さ、今日は早めに寝よう」
「…ハイ」

こなたは妙に焦っていた
明日のことなど明日しか判らない
日本を敵に回すと決めた以上、明日には社会的抹殺を受けているかもしれない
部屋に二つ布団を敷き、パティとこなたが横たわる
不安と恐怖に苛まれながらも、こなたとパティは眼を閉じた



『へーえ、無視するんだ』

脳裏でかがみが蔑む眼で覗き込む

『こなちゃん、そんな人だとは思わなかったよ』

呪うような目付きでつかさが振り返る

『泉さんには…失望しました』

微笑みながらもはっきり陰った顔で睥睨するみゆき

「うるさい!」

思わず声を出してしまい、眼が覚めると
既に朝日が眩しくカーテンの隙間から漏れていた
眼をこすりつつ起き上がると
パティはすやすやと気持ち良さそうな顔で寝ている
まだ、朝の6時半だ

その時、玄関でチャイムが鳴った
とりあえず、階段を降りてインターホンに出る

「はい…」

抜けた声が居間に響いた

『朝早くにすみません、柊かがみです
もしかして、こなた?』

凛とした声がこなたの耳を覚ました

『…つかさとみゆきもいるから』

寒い中、せっかくここまで来てくれた親友を追い返すのは失礼だ
仕方ないので、こなたは外に出ることにした
どちらにしても、決着を着けておかないと後先もっとややこしいことになる

「待ってて」

こなたは弱々しくインターホンを切り、覚悟を決めてドアを開いた
ゆっくりドアを開くと、3人は白い蒸気を吐きながら並んでいた

「こなた、昨日はごめん」

かがみはひたすら頭を下げた
つかさとみゆきも倣って頭を下げた

謝るって何だ
アメリカの反感を取り消すということか?

「謝るのなら、パティを助けるのに協力してよ」

こなたは無表情を維持した
甘えてはいけない

「…それは出来ない」

と、かがみは視線を反らした

「どうしてさ
パティに何の罪があるの
ただアメリカ人なだけで傷つけられるパティの気持ち、考えたことある?」
「私は、あんたまで巻き込まれるのが嫌なのよ!」

こなたは言葉を継ぎ足せなかった
つかさとみゆきの顔を見遣ると、二人とも深く頷いた

今や日本はアメリカ人を廃除しようとしている国
反感に火をつけた発端の犯人さえ捕まっていない中、パティと居るとその圧力に
必ず負けると見ているのだろう
そんなことは判っている
ただ、この状況を黙って見ている事が出来なかっただけだ
何もかもパティを救う為なのだ

「こなちゃん、お願いだよ…」
「泉さん…」

つかさもみゆきも
こなたを大切な友達だと思って言ってくれているのは痛いほど判る
だが、パティは独りなのだ
親もいない、アメリカの友達とも音信不通
もはやパティにはこなたしかいない

「ごめん…みんな
気持ちは判るけど、パティを裏切ることは出来ないよ」
「こなた!」
「こなちゃん!」
「泉さん!」

かがみが、家に入ろうとするこなたの手を引っ張った

「お願いだから考え直して!
パティと居たら、これからも絶対いいことにならないんだから!!」
「…ごめん、離して」
「パティがそんなに大切なの?私達のことはそんな存在なの?」
「…離してよ」
「ねえ、こなた!」
「離してよ!!」

こなたは怒号を上げ、かがみが怯んだ隙に家に入り、鍵を閉めた
ノックとチャイムの嵐が巻き起こる
こなたは耳を塞いだ

10分程すると、弱々しく叩かれたノックを最後に、3人は家を離れた
こなたは覗き窓から3人が渋々出ていく様子を見ていた
かがみ達は涙を流しながら何度もこちらを振り返り
なかなか家を離れようとしない

30分ほど逡巡していたかがみ達の姿が漸く見えなくなると
こなたは手にポタリと冷たいものを感じた
気がつくと、こなたは涙を流していた

そうじろうは、鼾をかいて爆睡している
何が最善かなんて判らない
とにかく、パティを守らなければ意味がない

居間で頭を抱えていると、電話がかかってきた
かがみではないことを祈りつつ、こなたは受話器を取る

「もしもし…」
『あ、泉さん?金子だけど』

金子というと、こなたとパティが勤めているメイド喫茶の主任だ

「こんな朝早くにどうされました?」
『いやあ…パティさんと連絡が着かなくてね…貴女なら知ってると思って…』
「じゃあ、私から伝えておきますよ、何でしょうか?」

金子は咳ばらいする

『いや…単刀直入で悪いんだけど、パティさんはもう来させないでくれるかな』
「どうしてです?」
『どうしてって…ここ最近の世情から見たら判るでしょ…
客から批判が出たのよ、何でアメリカ人が居るんだって』

どの趣味であっても、日本人であれば結局アメリカの反感は同じであった
アメリカに対する暴動の拠点となる人物は本当は少ないに違いない
ただ、便乗する輩や黙って傍観する人間が大多数を占めているのだ

『あと、出来ればアメリカ人と深く関わってた貴女にも従業員から批判が出てるわ
騒動に巻き込まれたくないって』

もう、とっくに怒りを通り超えていた
怒りをぶつけても、もはやどうにもならない

結局、こなたとパティは生活費の一部であったバイト先を失った
もはや、アルバイトをしたくても、パティが隘路となって門前払いは確実だろう

パティが知ると、またショックを受けるに違いない
こなたは気が紛らすために、朝食を作ることにした

目玉焼き、ベーコン、パンという簡単なものだが、食欲が出ない

「おはよう、こなた
朝ごはん作ってくれてるのか、ありがとう
手伝おうか?」
「いいよ、お父さんは座ってて」
「無理はするなよ」

朝食が出来上がったと同時にパティが階段を降りてきた

「コナタ…おはようございまス」
「そんなに改まらなくても、いつもの調子でいいよ」
「Good morning、コナタ、おじさン」
「ああ、おはよう
やっぱり俺は『おじさん』なんだな」
「それ以外に呼びようがないでしょ」
「いや…『そう君』とかさ」
「じゃあ…ソウクン」
「…駄目だ、なんか恥ずかしい」
「とにかく食べよう、冷める」
「そうだな」
「イタダキマス」

ふと考えた
自分は今、いいことをしているのだろうか
皆に軽蔑され、日本から嫌われ者の立場にいるこなたの行動は、本当に正しいのか
ただ、私立の学校で制服を着ない
というように独り足掻いている邪魔者なのではないか

自分から相手を敵として見るのは
相手からも自分を敵としているのと同じであり
つまりはどちらも悪になるし、正義にもなりうる訳だ

そんな中で、こなただけが足掻いても、いずれ消されてしまう
日本のどこかには、こなたと同じ想いを傍観という引き出しに隠しているに違いない
もっと、大きな行動を起こさなければ、日本は変われない
ここで一度、自分の想いを世間に打ち明けてみようか…

「パティ、朝ごはん食べたらちょっと外に出るよ」
「どこか行くのか?」

先に答えたのはそうじろうだった

「大丈夫、散歩だよ」
「だが、二人で散歩するのは…」
「たまには息抜きも必要だって」
「…うーん」

そうじろうが俯いた隙に、パティに合図を送る

「あ、おじサン、ワタシダイジョウブですから
アマりナガイしているのもオちツかないでショ?」
「いや…そんなことないけど」
「ちょっとだけだから」

こなたが妖艶な眼差しで、最後に念を押す

「…そ、そんな目で見るなよ…すぐに帰るんだぞ?」
「判ってるよ」
「あー、まだ眠いなぁ…
もう一眠りしてくるから、起きる前には戻ってきなさい」

そうじろうまでを危険な目に遭わせる訳にはいかない
何とか外出の許可を得たこなたとパティは、朝食を食べると直ぐに支度を始めた
画用紙を何枚も貼り付け、『もう一度アメリカを見直して下さい』と
大きな文字で書き始める
この際、文章にかっこ良さを求めるよりも単刀直入に書いた方がいいだろう
こなたにさえもこの衝動はよく判らなかった

「トコロデ、ナニするツモりですカ?」
「このままだと、アメリカの反感が拡がるばかりでしょ?
だから、演説でもして少しでも共感者が居ればなあ、と」
「なるほど、でもキケンじゃないですカ?」
「判らない。だから、お父さんが着いてくるとマズい」

こなたは倉庫から適当にメガホンを取り出し
普段のアニメオタクらしくない堂々たる態度で外に出る

「コナタ…ホントにダイジョウブですカ?」
「思ったより心配性だねパティは
まあ、多分何とかなるよ」

こなたは覚悟を決めていた
皆がやらなきゃ誰がやる

パティを助けるのは、私なんだ

こなたは家から5分歩いた所にある公園に入る
朝だとは言え、親子連れや子供が遊んでいる
ここに、こなた達と同意見の人間はいるのだろうか
突如として、こなたの身体は妙な震えを感じ始めた

思えば、こなたは小学生の頃から、生徒会の演説に出た経験が一度も無く
大勢を前にして意見を言うのはかなり苦手だ

気がつくと、下着が冷や汗でべったりと張り付き
こなたは公園の真ん中で動けなくなっていた
何故だ、パティを守れるのは自分しかいないのに…
パティは顔を青くして俯くこなたを気遣う

「どうしたんですカ…カオがアオいですヨ?」
「いや…何でもない
この演説が出来るのは私だけなのに…頑張らなくちゃいけないよね…」

こなたは襲い掛かるプレッシャーの重量に押し潰されかけていた
意識すれば意識するほど、自信が無くなってくる

この演説をするということは、つまり日本に対する宣戦布告である
だが、問題はそこではない
偏見だけで攻撃する、誤った日本人を粛正するだけだ

ただ、こなたにそれを公に訴えかけるほどの説得力があるだろうか
一度もアメリカに偏見を持たなかったというと、嘘になる
そんな自分に演説をする資格があるのだろうか

「コナタ…スコしヤスみますカ?」
「いや、いいよ…おかしいな…いつも人前で踊れるのに…」

すると、公園のジャングルジムから大きな金属音と共に
幼稚園児と思しき男の子の泣き声が聞こえてきた
周りの男の子達が慰めているが、
先程まで居た大人達は姿を消している

パティは、迷わずその男の子の元へ向かい、声をかける

「ダイジョウブ?ドコがイタいですカ?」

男の子は、涙を流しながら困惑する
パティがニコッと微笑むと、どうやら安心したのか
ゆっくり指先を膝の傷口に指す
ただの擦り傷のようだ
しかし、公園がそこまで大きく無いのか、水場が見当たらない

「ちょっとガマンしてクダさいネ…」

パティは、人差し指をぺろりと舐めて
傷口にこびりついた砂や石を取り除いていく
男の子は顔を歪めるが、泣きはしなかった
砂や石をなるべく綺麗に取り除くと
傷口が少し割れているのがはっきり見えたので
パティは直接、舌を傷口に密着させた
周りの子供達が唖然とする中
パティはその男の子のために必死で看病している
幸いながら、ポケットに病院で貰ったバンドエードがあったので
それを男の子の膝に貼付けた

アメリカというと、接吻やハグに積極的であるという偏見もある
こなたは思わず、パティはアメリカ人なんだな
というレッテルを張りそうになっていた
やはり、そういう偏った見方しか出来ない自分に演説なんか出来そうにないか

パティは親友なんだ
ただのアメリカ人じゃない

「もうイタくないですカ?」
「…うん、おねーちゃんありがとう」
「おレイはいいですヨ
おカーサンはいないんですカ?」
「さっきまでいたんだけど…あ、来た」

男の子が指差す方向を見ると、若い女性が走って来た
母親は、その男の子を宥めながら抱き上げる

「大丈夫?ごめんね
うっかり公園の外に出ちゃって…あら、このバンドエード…」
「そこのおねーちゃんが、つけてくれたんだよ」

パティは恐れていた
また、アメリカ人への嫌悪の情を訴えかけられるのかと冷や冷やしていた

「あなたが…してくれたの?」
「ア…ハイ…」
「ありがとう」

パティの好意に対して御礼を言われたのは久しぶりだった
女性は、そのままこなたの居る休憩所にやって来た
パティは、子供に気に入られたようで、砂場で子供たちと遊んでいた

「アメリカにあの子のような人間がもっと居れば
娘も死なずに済んだかもしれないのに…」

その女性は、ふと独り言を呟いた
まさか…とこなたは何かを思い出していた
一昨日のニュースの報道、帰宅途中の女生徒が殺された事件

「貴女は…もしかして、一昨日殺された娘さんの…」
「貴女はあの子のお友達?」
「はい」

こなたは力強く答える

「…昨日葬式が終わったわ
何だか家に居ても落ち着かなくてね
貴女達は、そんな看板を持って何するつもりだったの?」

こなたは、自信なさ気に弱々しく声を出す

「…演説です」
「演説…」
「貴女は日本人よね?
愚問かもしれないけど、どうして貴女がアメリカの手助けを?」

女性はこなたを訝しげな目付きで見つめる

「…親友だからです」
「…なら、これだけは忠告しておくわ
アメリカ人がアメリカを護るのは正当防衛
でも、日本人がアメリカを護るのは自国を裏切るのと同じ
結局は、アメリカでも自国を裏切った日本人としての扱い
それなのに、貴女はあの子を選ぶのね」
「…私が好きでやってるんだから、いいじゃないですか」

こなたは子供達と戯れるパティから目を反らす

「好きでやってるようには見えないのよ
無理してるようにしか見えない」

こなたは束縛されていたのかもしれない
パティを助けなければならない
という思いがこなたの心を少しずつ蝕んでいたのだ
こなたは、それを自分が良い事をしているんだと信じて鼓舞することによって
苦しみを打破してきた

「皆がおかしいんですよ…」
「じゃあ、貴女がやっていることは本当に正しいと思ってやっているの?」
「…当然じゃないですか、自分が正しいと思ってるんですから」

こなたは自分の言葉を強気に見せた

「貴女は今幸せ?」
「えっ…し、幸せですよ」
「後悔してない?」
「…してませんよ」
「正しい事ってね、自分の考え方に依存するけど
自分が正しいと思っていることに疑いを感じたら、そこで貴女は負けよ
貴女は、自分を疑ったことある?」

図星だった
今のこなたは、自分の考えだけを貫き通して行動しているだけ
パティには御礼を貰ってはいるが、これはただの自己満足なだけかもしれない
こなたは自分の意志を確たるものにしていただろうか
何度も何度も自分が正しかったのかを疑い、荊の道を引き返していただけだ

何で自分が味方の限りなく少ない方向を選んだのか
そんなことは容易に想像出来る
多数派に抗うことを安易に考えていたからだ
全てを捨てて、他人を護る必要が本当にあったのだろうか
どこかにそんな気持ちすらあった
でも、パティのお陰でアメリカという存在を再認識したという気持ちもあった

「私…どうしたら…」

俯くこなたの目に涙が滲む

「今は様子を見て、とりあえず落ち着くのを待った方がいいわ
もちろん、人里から離れた所でね」

それが最善手なのだろうが、かがみ達とは完全に別離することになる
まだ、手遅れではない
出来れば、みんなとの共存の道を探したい

「…私は、ここからは出られません」
「なら、仕方ないわね」

女性は前へ向き直った
こなたは、砂場で子供と遊ぶパティを見つめた
あの無邪気な子供も
将来アメリカに偏見を持ったり侮蔑する大人になるのだろうか

人間、世界各国に様々な偏見を抱え、自ら隔離している
しかし、そこに共通する思いを互いが持った時だけ、それらは繋がる
現に、こなたはパティと繋がる事が出来た

だがこうなった以上、繋がり続ける訳にはいかないのだろうか
やはり、もうパティを棄てることはやむを得ないのか

「私、一概視するのは嫌いなのよね
一人一人、みんな違うのに人間は、どうしても不特定となると
可能性のあるもの全部を敵に回すから」

パティと一緒に住むだけで、こなたは仲間を失った
自分のやっていることは、決して賢明であるとは言えない
ただ、思ったより反アメリカ派が多すぎた
世間がマスメディアに血迷い、それはマスメディアにとっても面白く
簡単にアメリカ人全員を敵にしてしまった

いや、そもそもマスメディアに躍らされることなく
自分で真実を追求することを学ばない限り、今の日本は変わる事が無い
だが、情報を楽に得られるようになった世の中
簡単に収集出来て幅広い範囲で同じ情報が流れる
ここで、同じ情報を持つマジョリティが生まれる
その情報を知らない人間もどんどんマジョリティに取り込まれ
その組織はとてつもなく広がっていく

地球温暖化は本当に二酸化炭素を減らしたら必ずしも治まるのか
また別の問題が発生するのではないのか
それすらも定かで無いまま煙に巻かれている

そして、その巨大なシステムに抗う事がどれだけ厳しく大変な事なのか
こなたはそこまで考えもしていなかった
パティを救うには、隠居でもするしかないのだろうか

…?

妙に焦げくさい臭いが鼻をつく
その臭いにパティも気付いたようで、辺りを見回している
ふと、立ち上る黒煙を見つける

ちょうど来た方角だ

「すみません、ちょっと家へ戻ります」

女性と挨拶を交わし、こなたとパティは家へと戻る
家の周りには人だかりが出来ており、パティの家をフラッシュバックさせる

炎に包まれていたのは、正にこなたの家だった
野次馬がどよめきを起こす中、こなたはそうじろうを捜す

「お父さん、お父さん!!」

そうじろうも、この思い出深い家が燃えるのは辛いに違いない
だが、そうじろうが居ればそれだけでいい
わがままは言わない

「お父さん!」

こなたは必死に叫んだ
どうやら野次馬の中に紛れ込んではいないようだ
この辺りは民家も程々で野次馬も少ないため
そうじろうが野次馬の中にいないことは直ぐに把握した
そうなると、そうじろうはこの燃え盛る炎の向こうに居る事になる

「そんな…お父さん!!」

近隣住民は、やむを得ないような顔で傍観している

「何見てるんだよ!!早くお父さんを助けてよ!!」

野次馬達は、視線を反らす

「アメリカ人連れ込むからだろ
しょうがないよ」

こなたは、パティを振り向く
パティは怯えて俯いてしまう

「お前らみんな取り憑かれてるんだよ!!
アメリカ人だって、同じ人間じゃないか!!」
「全然違うね
日本で散々暴れ狂いやがって、今回の事件で漸く本性を現したのさ
アメリカ人は日本から追い出すべきだってな」
「でも、この中に居るのは日本人じゃないか!!」
「そのアメリカ人味方にした時点で、お前らはもう日本人じゃない」

こなたは、拳を握りしめる


パティは、この光景を見て涙を流していた
何故涙が出るのか解らない
ただ、パティは一言呟いた

「オトウサン…」


こなたの家はどんどん燃え盛り、更に勢いを増して全てを灰にしようとしている

ネトゲをする為に、お父さんが無理して買ってくれたパソコン
みんなで使っていたキッチン
茹だる様な暑さの中、コミケで漸く手に入れた同人誌やフィギュア
お父さんとお母さんと私の、思い出のアルバム

そして、大好きだったお父さん

今なお、この思い出の詰まった宝箱の中でどんどん燃えてしまっている

呆然と見ていることしか出来なかった自分が情けなくなり
そうじろうを置いて家を出たことを、酷く後悔した


漸く消防士が来て、炎が鎮火した時には、そこに元の家の姿は無く
全てが焼けおちた跡だった

テレビ局も来てマスコミがこなたにインタビューするが
口も開かず、何も答えられなかった

周りの音が聞こえない
とてつもなく広いコンサートホールに独り立っているような孤独と虚無
こなたは、ただただ消防隊に連れられ
必死に呼びかけるパティの後ろに佇んでいた

何も頭に入らず、どんどん視界は狭くなる
目の前が暗くなってく…


―本当にこれでよかったの?


心の中の自分が問い掛ける
何度も問い掛けられたが
その度に自我に勝手に芽生えた善意という名の偽善で
封印し続けてきた

放火によって、閑静な住宅地に佇む一軒家が焼失した
他の誰ならぬ、生まれ育ってきた自分の家
そして、取り残されたそうじろう
たった一人の父親

放火犯は、こなたにとってこの世を闊歩するに値しない程に身分の低い人間
しかし、今の日本人ならアメリカの絡みを利用して
放火の事実すら揉み消すことが出来るかもしれない

こなたは自分を棄てた
パティを救うためだけに全て捧げた
日本人と闘うことで、何もかもを失った

やはり、自分も皆と同じようにアメリカを叩いていれば良かっただろうか
それなら、何の憚りも無くかがみ達と付き合えたに違いない
そもそも、何故自分が大親友のかがみ達やみんなを捨ててまで
パティを助けるという無謀な考えに至ったのだろう

今までに対談した人々でも
アメリカの擁護を殊更にさらけ出す人間は居なかった
人は、吐き気や眩暈に極限まで抗い続けると、本当に目の前が真っ暗になる

お父さん…駄目な娘でごめんなさい





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